葬儀費用は所得控除できないって本当?控除の方法や流れを徹底解説!
「葬儀費用は所得控除できない?」
「葬儀費用を相続税として精算する流れやポイントが知りたい」
「相続税として精算できる葬儀費用とできないものについて具体的に知りたい」
本記事では上記の疑問や要望などにお応えします。
葬儀費用は高額になるケースも多いことから、確定申告の所得控除でお金が戻ってくることを期待する方もいるでしょう。
結論、葬儀費用は所得控除の対象となっていません。一方で、相続税であれば精算することが可能です。
今回は葬儀費用が所得控除できない理由や、相続税として精算するときのポイントや流れなどを解説。
最後まで読めば、葬儀費用の控除に関する疑問を解消できます。
目次
葬儀費用は所得控除できない
葬儀費用は所得控除の項目に含まれていないことから、所得控除の対象外となるのが特徴。
所得控除としてあげられるものは、具体的に以下の通りです。
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 勤労学生控除など
所得控除とは、「納税額を計算するときの所得」を小さな金額にすることで、納税する方の負担を軽減することが目的です。
葬儀にかかる費用の支払いに関しては所得控除を当てにできず、香典や遺族間での適切な分担、相続遺産などの方法をとる必要があります。
葬儀費用は相続税で精算できる
葬儀費用は所得控除できないものの、相続税として精算することが可能です。
相続税とは財産を相続したときに発生する税金で、相続した財産の金額に応じて税率も変わるのが特徴。相続財産から葬儀費用を減らすことで、相続税の計算で用いられる金額を低く設定できます。
高額な財産を相続すると多くの相続税を納める必要があるものの、相続税は必ず発生するものではありません。
親や子どもなどが亡くなったときに葬儀をするのは必要不可欠なものであることから、葬儀費用は相続税を申告するときに控除できます。
控除できる葬儀費用とできないものがある点については、理解しておくのが望ましいです。
葬儀費用を相続税として精算するときのポイント4つ
葬儀費用を相続税として精算するとき、以下の点を押さえておきましょう。
- 相続前に葬儀費用を引き出すための条件がある
- 領収書を保管する
- 葬儀代を正しく申告する
- 適用外となるケースもある
ここから具体的に解説します。
相続前に葬儀費用を引き出すための条件がある
故人の預貯金を引き出して葬儀費用に当てたいと考える方も多いでしょうが、分割協議後に分配されるまでは、原則として自由に引き出せません。
なぜなら、金融機関は被相続人の死を確認すると預貯金を凍結する対応をとるためです。しかし、被相続人の預貯金を使いたい場合、金融機関で手続きをすれば150万円までであれば引き出せます(預貯金の仮払い制度)。
仮払い制度では、以下の2つのうち、小さい方の金額が対象となる点は理解しておきましょう。
- 150万円
- 相続開始時の預金額×1/3×引き出す相続人の法定相続分
葬儀費用のほか、生活費などを補填するうえで効果的です。預貯金の仮払い制度については、以下の記事でも解説しているので、あわせて参考にしてください。
領収書を保管する
葬儀費用を相続税として精算するときは、葬儀に関する領収書をすべて保管しておくのがポイント。相続の対象となる方が話し合うとき、葬儀費用でいくら発生したのかを提示するとトラブルを回避しやすくなるためです。
特に、お寺に渡すお布施や車の運転手さんなどに渡す「心付け」についても対象となる点は注意が必要。領収書が発行されない場合は、ノートに「日付・支払相手・目的・金額」をメモしておきましょう。
ノートに手書きした内容に関しても、領収書として効果があります。
葬儀代を正しく申告する
葬儀費用を相続税として精算するとき、金額を偽らず正確に申告するのがポイント。
税務署に嘘の申告が発覚すると、以下の通りペナルティが課されるためです。
- 10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金
- 併科
「税務署にバレないだろう」と考える方もいるかも知れませんが、税務署には調査権限があり、葬儀費用を偽ることは大きなリスクがあります。
余計なリスクを負わなくするうえでも、葬儀代は正しく申告しましょう。
適用外となるケースもある
葬儀費用を相続税として申告するとき、すべての費用が適用とならない点は押さえておくのがポイント。
税務上においては「葬儀を行い、埋葬するために必要な費用」に限定されているためです。
葬儀ではさまざまな費用が発生することから、法律で一律に設定することは難しいとされてきました。
相続税を計算するときの目安が必要であることから、国税庁によって葬儀費用の中で相続税に適用されるものと適用されないものとに定義されています。
葬儀費用を相続税として申告する流れ
葬儀費用を相続税として申告する場合、以下の流れで進めるとスムーズです。
- 相続税申告書など必要書類を用意する
- 領収書を添付する
- 期限内に提出する
ここから具体的に解説します。
1.相続税申告書など必要書類を用意する
葬儀費用を申告するときは、まず相続税申告書を用意しましょう。
税務署から送ってもらえるケースもありますが、税務署へ取りに行ったり公式サイトからダウンロードしたりすると、より早く入手できます。
相続税申告書の中で葬儀費用に関するものは、第13表「債務及び葬式費用の明細書」です。
債務及び動式費用の明細書で記入する必要があるのは、具体的に以下の2点。
- 「葬式費用の明細」欄:支払相手・金額・支払った本人の氏名
- 「債務及び葬式費用の合計額」の「葬式費用」欄:支払が確定した費用と確定していない費用
相続税申告書の他に、葬儀費用を申告するときは以下の書類が必要になるので用意しましょう。
葬儀費用の申告で 必要な書類 | 具体的な内容 |
---|---|
故人の一生分の戸籍謄本 | 戸籍に載っている全員の身分事項を証明するもの |
相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場でのみ入手できる |
相続人全員の印鑑証明書 | 登録されている印鑑が本物であることを証明するもの 市区町村役場で印鑑登録を終えると入手できる |
遺言書のコピー | 被相続人がどのように財産をわけるのかを明示した書類 |
(遺言書がない場合) 遺産分割協議書のコピー | 遺産分割協議会で決まった内容をまとめたもの 正しく書かないと遺産分割協議書は無効になる |
2.領収書を添付する
葬儀税申告書に必要事項を記入したあとは、領収書を添付しましょう。
領収書を添付しないと、架空計上として税務署に受理されない恐れがあるためです。
前述の通り、葬儀でもらった領収書はすべて保管しておく必要があります。
領収書の発行がないお布施などの支払いに関しては、金額を忘れないうちになるべく早く記録に残しておくのが望ましいです。
3.期限内に提出する
葬儀税申告書など必要書類を揃えたあとは、故人が亡くなった翌日から10ヶ月以内に税務署へ提出しましょう。
税務署であればどこでもよいわけではなく、故人の居住地を管轄するところへ送付するのがポイントです。
期限を過ぎると滞納していると見なされ、追課税される可能性もある点は注意が必要。
提出までには余裕を持った期限が設定されているものの、なるべく早く提出すると安心できます。
相続税として精算できる葬儀費用
葬儀費用を相続税として精算する場合、対象となる費用は具体的に以下の通りです。
- 死亡診断書
- 葬儀会社に支払った費用
- 葬儀場までの交通費
- 参加者の方への飲食代
- 故人の回送費用
- 火葬・埋葬料
- お手伝いさん・運転手さんへの心付け
- 読経料・戒名料
- 納骨費用
- その他費用
ここから具体的に解説します。
死亡診断書
相続税として精算できる葬儀費用は死亡診断書です。
葬儀で火葬するためには死亡診断書の取得が必要で、市区町村役場で入手可能。
故人が亡くなってから一定期間経過しても死亡診断書を取得しないと、本籍地を管轄する法務局で取得する必要があります。
葬儀会社に支払った費用
相続税として精算できる葬儀費用の1つは、葬儀会社に支払った費用。
葬儀会社に支払った費用としてあげられるものは、具体的に以下のとおりです。
- 祭壇の設営
- 葬祭場の利用
- 棺
- 霊柩車
- マイクロバスなど
金額にもよって変わるケースもあるものの、葬儀会社に支払う方法としては手渡しや銀行振込があります。
葬儀場までの交通費
相続税として精算できる葬儀費用として、葬儀場までの交通費があげられます。
葬儀で喪主となる方の中には、遠方から電車やタクシーなどを利用して葬儀場まで駆けつけるケースもあるでしょう。
交通費に関しては葬儀において必要なものであると考えられていることから、相続税として控除できます。
参列者の方の飲食代
相続税として精算できる葬儀費用として、参列した方の飲食代があげられます。
葬儀で発生する飲食代とは具体的に以下の通りです。
- お通夜や告別式で提供する食事
- 弔問客に提供するお菓子・飲料
飲食店や仕出し料理を利用するほかに、コンビニやスーパーなどで料理を購入した場合も対象となります。
故人の回送費用
相続税として精算できる葬儀費用は、故人の回送費用があげられます。
故人が安置されている場所から葬儀場までの回送費用に関して、葬儀では必要不可欠なもののためです。
霊柩車を利用する費用や運転手さんに支払う費用などがあげられます。
火葬・埋葬料
相続税として精算できる葬儀費用は火葬や埋葬料です。
火葬や埋葬は葬儀の中で欠かせないものであることから、火葬場へ移動するまでに利用するマイクロバスの費用も精算対象とできます。
ただし、納骨式に関連するお布施や食事代などは対象とならない点は注意が必要です。
お手伝いさん・運転手さんへの心付け
お手伝いさんや運転手さんへ心付けとして支払う費用に関しても、相続税として精算できます。
葬儀の規模によっては、世話役や香典の受付、会計や台所などで人手が必要となるのが特徴です。
お手伝いさんに手伝ってもらった内容や地域によって金額は異なる傾向にあるものの、支払ったお金は相続税として精算可能。
運転手さんへの心付けとは、霊柩車やマイクロバスなど火葬場を往復するために運転してもらった方へ支払う費用のことです。
読経料・戒名料
相続税として精算できる葬儀費用は、読経料や戒名料。
読経料とは、葬儀で僧侶にお経をあげてもらったことへのお礼として発生する費用のことをいいます。
戒名料とは、僧侶によって戒名してもらったときに必要な費用のことです。
仏教を信仰しているがなくなった場合、寺院の僧侶によって戒名をもらうのが特徴になります。
納骨費用
相続税として精算可能な葬儀費用の1つに、納骨に関する費用があります。
ただし、お墓の開閉など、納骨するうえで必要なものに限られる点に注意が必要です。
納骨式で読経してもらったときのお布施や、没年・戒名を彫刻する彫刻料などは対象外となります。
その他費用
相続税として精算できる葬儀費用として、その他葬儀に伴って発生するものがあげられます。
具体的には、喪主が負担する傾向にある会葬御礼や精進落としの費用などが対象です。
会葬御礼とは、葬儀に参列してもらったお礼として、参列者に渡す品物のことをいいます。
一方、精進落としとは、葬儀がおわったあとに僧侶を労うことを目的とする食事のことです。
相続税として精算できない葬儀費用
葬儀費用の中には相続税として精算できるものがあるものの、以下の通り精算できないものもあるのが特徴です。
- 香典返し
- 墓石や墓地の購入・借入費用
- 法事に関する費用
ここから具体的に解説します。
香典返し
葬儀費用の中で、相続税として精算できないものは香典返しです。
葬儀でもらう香典は相続財産として見なされないことから、もらった香典の金額に応じて金品を返す「香典返し」も同様だと考えられているためです。
墓石や墓地の購入・借入費用
葬儀費用の中で相続税として精算できないものの1つに、墓石や墓地の購入・借入で発生した費用があげられます。
故人を供養する上では必要であるものの、葬儀とは関係がないと見なされているためです。
ただし、故人が亡くなる前に墓石などを購入していた場合、相続税の精算対象となるのが特徴となります。
法事に関する費用
葬儀費用の中で相続税として精算できないものとは、法事に関連するもの。
初七日法要や四十九日法要などに関しては、以下の通り葬儀が終わってから行われるのが特徴のためです。
- 初七日法要
故人が亡くなってから7日後にする法要のこと - 四十九日法要
- 故人が亡くなって49日後にする法要のこと
葬儀と同時に初七日をする「初七日法要」を行い、葬儀会社の請求書に区分がない場合は相続税として精算できます。
葬儀費用を相続税として精算するときの計算方法
葬儀費用を相続税として精算する場合、相続税の金額から算出するわけではありません。
相続する財産の金額から相続人が負担した葬儀費用を引くことで計算できます。
相続税の計算方法は以下の通り。
- 【課税遺産総額×法定相続人の法定相続分×税率−控除金額】により、算出税額を求める
- 相続人分の算出税額を求めたうえで足す
- 相続人分の総算出税額×按分割合によって、各相続人の具体的な相続税額を計算できる
相続税を簡単に計算するうえで役に立つ表は以下の通りです。
法定相続分に対応する 取得金額 | 税率 | 控除金額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
まとめ
ここまで、葬儀費用は所得控除できないものの、費目によっては相続税として精算できる点について解説してきました。
葬儀費用を相続税として精算するときのポイントは、対象となるものと対象外のものを正確に理解することです。
数字に苦手意識のある方の場合、専門知識を持つ税理士への相談を検討するのも一つの方法でしょう。
葬儀費用の控除の方法を知っておけば、葬儀のあとで不安に感じる必要はありません。
本記事を参考に、葬儀費用と控除に関する疑問を解決していただければ幸いです。